2007/08/26

消された記録と記録されない事実

この3~4ヶ月間に起こったこと列挙してみる。

・年金記録問題
・農林水産省所管の独立行政法人・緑資源機構談合問題
・松岡農林水産大臣(当時)、首吊り自殺
・久間大臣発言問題
・赤木(前)農林水産大臣事務所費問題
・食肉偽装問題
・コムスン介護報酬不正請求問題
・中越沖地震
・柏崎原発事故
・参院選挙自民大敗
・赤木(前)農林水産大臣辞任
・猛暑と柏崎原発事故に伴う電力不足

 論えばきりがないないほど、国民の健康や安全を守るはずの行政機関や企業に多くの不祥事が発生した。加えて自然災害や気象の変動への対策もなおざりにされている現実が浮かび上がる。

だが、これらの問題が発生する原因が除去されたとは到底思えない。


 巷では、「アベシンゾー内閣がどれだけ持つか」とか、「防衛庁人事抗争」とか、「最早どーでもいい」話題に切り替わってしまっている。この国では、「禊」(みそぎ)という便利な言葉がある。「選挙は禊である」という、得体の知れないレトリックに国民はいつまで欺かれ続けなければいけないのか。

【羊頭狗肉】という言葉がある。
「羊の頭を掲げて、狗(いぬ)の肉を売る」というおぞましい言葉なのだが、
「【羊頭狗肉】がばれたら別の羊の頭が掲げられるという【首の挿げ替え】が常に行われているだけ」という【無限羊頭狗肉状態】が今の我が国だろう。

 当に羊頭狗肉な事件が上記の中にもあるが、つまりは情報の捏造という「犯罪」である。
 情報の捏造は以下の手順で行われる。

  1. 後日問題となるような事実は極力記録させない。あるいは、極秘事項として日の目を見せない。
  2. 問題が発覚したときには、まず手がかりになりそうな事実を抹消する。
  3. 「事実無根」を繰り返す。また、「差し障りのない虚言」の吹聴を繰り返すことで情報錯乱を発生させる。
  4. 話題を変え、忘却を待ち、反証を起こさせないような既成事実を擁立し、新たな宣伝広告を行う。

【無限羊頭狗肉状態】を可能ならしめるのは 1.のプロセスである。
つまりは事実を極力残さないというのが情報捏造の土壌であるわけだ。
また、2.3.4.のプロセスはもちろん組織的に行われる。第三者の介入が排除されることがポイントとなる。これには懐柔そして圧力がものを言う。

 私のようなシステム屋稼業から見れば、特に重要記録を残さないということはあり得ない「真逆」の世界である。
 我々の世界では、通信機器やサーバシステムといった基盤の動作や、アプリケーションプログラムの動作、ユーザや管理者のアクセスの状況までがログとして記録されるのが当たり前である。システムの正常動作や障害などの記録が行われ、何らかの障害や不具合が発生した場合にはログを調査することで事実関係を特定する。
 正常に動作していることを証明するのも、不具合を発見し、システムの改善を行うのもログによって記録された事実による。

 今、一般的な企業では【内部統制】(internal control)【コンプライアンス】(compliance=法令遵守)という言葉がしきりに叫ばれている。これは、企業活動による社会的不祥事が頻発したためだというが、元々が輸入品の言葉だ。方や四文字熟語、方やカタカナ英語であるところが、如何にもと言ったところだが。
 平成18年(2006年)6月7日、金融商品取引法が成立したことによって、来年、平成20年(2008年)4月1日以降にすべての上場企業にJ-SOX法(日本版SOX法)が適用されることになる。これにともなって、内部統制報告書を作成したり、内部統制監査を受けることに「対応」することが求められている。
 内部統制整備を推し進めようとしているのは「金融庁」「経済産業省」だ。
 (※このJ-SOXも米国SOX法(
Sarbanes‐Oxley act)に紐つけたものだ。)

 ITシステムにとっても今まで以上に、監査に耐え得る仕組みづくりが求められている。ログという証跡の管理も、その一つである。今までのようにシステム管理者がログを管理するのでは不正が起こり得るということで、ログの改竄防止や第三者による管理が必要ということになってきている。
 少々窮屈なことではあるが、結構なことだと思う。私たちは求められるシステムの管理について「無茶かな」と思えることはしばしばある。それでも、こういった対策が必要だと思うのは、「内部統制」が以下の状態から企業体を守るという理由によって必要不可欠であることが自明であるからだ。

  • 業務の非効率化
  • 不祥事の温床
  • 不明瞭な財務データ

 このような状態が長く続けば企業体は存続し得ない。不祥事が発覚すれば社会から糾弾されるし、発覚しなくとも企業体が真っ当な成長を続けることが不可能になり淘汰されることになっている。

 簡単に言えば、内部統制とは「会社が私利私欲に走らないために、健全な会社経営をしていくための仕組み・手法」のことなのだ。


 さて、「社会的不祥事の頻発した」ことが内部統制を整備しなければならないきっかけということだが、それについては不祥事の中身や関係者をきちんと把握する必要があるだろう。
 つまり、
  • この3~4ヶ月に止まらず、「不祥事」は一般企業にのみ発生しているのだろうか? 
  • 或いは一般企業において発覚した不祥事について監督/管轄官庁は関わっていなかったのか?

 一般企業において不祥事が発生した場合、責任者に対する処分は明らかに行われるし、内容によっては企業自体が存続されないことになる。だがこれとは全く対照的に監督/管轄官庁の不祥事に対する処分は甘い。組織的な階層が上になればなるほどその甘さが目に余ると思うのは私だけだろうか。
棒給の返納はしないのかという問いに対して「そんなものはもうない」と言いのけた元総理大臣に対しての評価は「かっこいい」でよいのだろうか。
民間組織の身分に比べ、公務員の身分はそれほど保証されなければならないものなのか。そして、彼らは失敗をしない「カミ」なのか。


 日本株式会社は現在、慢性的な赤字状態であり、現在でもその赤字は増え続けている。それについて責任を取るわけでもなく、改善されるでもなく、「ツケ」は増税によって賄われようとしており、さらに解消されない「ツケ」は次世代に先送りされようとしている。この「ツケ」とはもちろん「借金」だけでなく、「資源」や「環境」も含まれる。

 日本株式会社はすべての国内企業を監督/管轄している。この監督/管轄者にモノ申すことは、その管轄される業界の中ではご法度となっている。それは企業および組織人として抹殺されることを意味するからだ。それでは、管轄/被管轄の関係でない場合はどうなのか。「門外漢」と言われるだけだ。あるいは、別のあらぬ方向から「危険なヤツ」として排除される。
 情報公開はどうだ。収入印紙代を支払い、情報公開申請を行っても「悪用される恐れがあるので公開できません」などという理由で事実をはぐらかされた知人もいる。(これは最近不祥事の続く農林水産省での事例だ) それは「情報公開制度」なのだろうか。

日本株式会社にも「内部統制」の整備を是非求めたい。もちろん期限は来年4月までだ。関連会社である特殊法人/公益法人もその対象であることは言うに及ばない。